生きる力をはぐくむ「総合的な学習」の在り方
-子どもの主体的な学習を支援する評価の工夫を通して- -要約-

総合的な学習研究プロジェクト
中谷忠裕,三ツ井知恵,小川眞紀子,白木一郎,夛田純枝

総合的な学習の時間の評価は,教科のように数値的に評価せず,学習の状況や成果などを適切に評価することが求められ,学校では望ましい評価の在り方が模索されている。そこで,総合的な学習における評価と支援の在り方について,福井県内の小中学校にアンケート調査をした。総合的な学習で育成しようとする力を多くの学校で設定しているが,それらが子どもたちに育成されたかを判断する評価の基準を学校全体で考えているところは,少ない。また,小学校における授業実践では,教師が設定した観点に沿った文章表現による自己評価の継続により,学習を振り返る力が育成されてきた。さらに報告会等での相互評価により子どもが互いの学習の良さを認め合い,知識の共有化と次の学習への意欲付けにつながった。

<キーワード>総合的な学習の時間,自己評価,相互評価,評価規準,評価基準

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情報活用能力を高めるネットワークの教育利用に関する研究
-インターネットを活用した授業を展開するための支援活動を通して- -要約-

情報教育研究プロジェクト
藤野正昭,富田裕之,山田雅彦,林智志恵,高須一郎,山北理吏,龍川みか
夛田純枝,白木一郎,竹吉 睦,村中正明,甲斐和浩,尾鳥達彦,池上さおり
森中明自,坪川敏光,山本利一,長谷川美津代,藤田 裕,中村喜一郎,三ツ井知恵

社会のネットワーク化が進展する中,学校のインターネットへの接続が進んでいる。インターネットは情報メディアの一つであるが,簡単に世界中から情報を受信できる点や不特定多数の相手に対して個人が情報を発信できる点で他のメディアとは違った特徴を持っている。今,学校教育の中で情報活用能力の育成を目標とする情報教育が注目を浴びている。これは,子供たちがこれからの社会を生きていくためには,情報メディアとしてのインターネットの利用の方法を知りその恩恵を受けるだけではなく,インターネットの普及によって急激に発展した情報社会にどのようにかかわるかという一人一人の自覚を培うことが重要だからであろう。 この研究では,情報活用能力の育成をキーワードに学校でインターネットの教育利用を進めるための情報や資料を提案することを通して,これからの情報教育推進の在り方について考えた。

<キーワード> 情報教育 情報活用能力 インターネット リンク集 情報モラル

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学校で生かせる集団づくりのための有用な活動の研究
-グループ体験の実践及び個人の意識調査「Smile」の開発を通して- -要約-

教育相談研究プロジェクト
佐飛克彦,林 恭子,田中正人,上田眞理子,大澤朋子
吉村ひろみ,桑原礼子,山田泰久,皆川孝志,岡崎一郎
松田純典,森中明自,前田洋一,高須一郎

本研究は平成11~13年度にかけての研究である。2年目である本年において,グループ体験については,中学2年生を対象として,実施する学級集団や生徒一人一人の実態から目標を設定し,その目標達成のためのエクササイズを検討して実践に臨んだ。事後には生徒の「振り返り」の結果,既存の尺度を使った結果や観察結果などから有効であったかどうか,また意識や行動に変容があったかどうかを評価し検証した。以上の方法と手順で研究を進めた。また,コンピュータを利用した意識調査「Smile」の開発については,生徒一人一人の状態を把握するための新たな尺度づくりとして2度の調査を実施し,それによってソフトの改訂を行うとともに質問項目についても検討を加えた。いずれも,いくつかの反省や課題を抱えながらも,ほぼ満足のいく結果が得られた。

<キーワード> 集団づくり,グループ体験,エクササイズ,意識調査,ソフトの開発

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道徳・特別活動における人間尊重の意識を高める指導の在り方 -要約-

中村 喜一郎

いじめ・不登校などの学校教育が抱える深刻な諸問題は様々な原因が考えられるが,その解決には,児童・生徒の人間尊重の意識を高める指導が必要であると考える。人間尊重の意識を高める指導を行うに当たって,道徳,特別活動における指導の在り方は重要である。これらの指導にあって,ジレンマ資料を用いた道徳の授業や体験的参加型学習を用いた学級活動などを行うことによって,道徳性がどのように発達するかを検証した。その結果,いずれにおいても道徳性の発達がみられ両者間での顕著な差違はなかった。

<キーワード>道徳性の発達,道徳,ジレンマ資料,特別活動,体験的参加型学習

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高等学校における教育相談の推進に関する研究
-教育相談担当の生徒支援の在り方についての調査を通して- -要約-

佐飛克彦

学校教育相談のなかで教育相談担当が,どのような役割や機能を現在担っているか,これからの在り方をどのように考えているか,そのためにどのような研修を積んでいこうとしているかを調査した。その結果,教育相談担当は,「人間関係」や「不登校」,「進路についての問題」で悩む生徒を対象に,主に「個別カウンセリング」や「チャンス面接」で直接的にかかわり,「同僚の教師へのコンサルテーション」や「学級担任の補助機能」,「保護者との面談やコンサルテーション」を通して間接的にかかわっている姿が見えてきた。このことから,現在の学校教育相談ではいわゆる「治療的教育相談」機能に偏重しているので,「開発的教育相談」機能とのバランスが求められている。

<キーワード>学校教育相談,治療的教育相談,開発的(発達援助的)教育相談

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生きる力を育む体験活動のプログラムの工夫
-適応指導教室における異年齢集団の特性を生かした体験活動を目指して- -要約-

上田 眞理子

フレンド学級は子供の心の居場所を保障しながら,友達とのふれあいや体験学習などを通して子供の世界を広げ,集団に適応していく力をつけることを目標としている。特に,昨年度から,子供たちの「生きる力」を育むことを基本方針として,様々な活動や援助を行ってきた。本研究では,昨年度から行ってきた体験学習のプログラムを検証・考察し,活動エネルギーの弱くなっている子供たち,人間関係を作ることが苦手な子供たちに効果的な活動プログラムの在り方を模索した。「生きる力」を育むことをねらいとした体験活動のプログラムは,不登校の子供たちの意欲向上や人間関係づくりに効果的であると考えられる。

<キーワード>不登校,体験活動,生きる力

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心を癒し,自己開示を促す教育相談に関する一考察
-色彩による不登校児の絵の分析を通して- -要約-

桑原礼子

不登校になると,学校へ行くべきなのに行けない自分に対して,引け目や後ろめたさを感じて昼夜逆転になり,さらに閉じこもってしまうケースがある。そしていったん閉じこもってしまうと,他人に対して防衛的になり,なかなか心を開こうとせずストレスがたまっていくようである。そこで,不登校児で閉じこもり状態のA子に色彩中心の絵画療法によるアプローチを行うことにより,心を癒し自己開示を促した。また,A子が描いた絵を色彩によって分析することにより心理状態を探り,A子の心理状態にそった援助を試みた。その結果,A子は徐々に心を開くようになり,心の奥底にたまっている思いを発散させ,活動の意欲をみせてきた。

<キーワード>非言語的アプローチ,絵画療法,カラーセラピー,色彩標識

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書写・書道学習に関連した総合的な学習の可能性を探る教材の研究
-文房四宝(筆,墨,硯,紙)を手がかりとして- - 要約 -

森中 明自

文房四宝の歴史や製法等を調査し,身の周りにあるものを使い,それらの製法に従って試作した。調査研究の段階で関連する事項,分野の調査や実験を行い,陶芸や表装等も含め,国語,社会,算数・数学,理科,図工・美術,技術・家庭,特別活動等との関連,総合的な学習への広がりなど,教材化の可能性を検討し素材として提示した。発想や調査,実験,試行,考察等の活動及びその過程が学習を構築・構成する素材となることが確認できた。また,書写・書道としての生かし方や授業の在り方も検討した。

<キーワード> 総合的な学習,書写,書道,教材開発

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柔道(男女共習)で自ら課題を発見し,解決していく力を育てる授業の研究
-早期の試合導入と互いにアドバイスできるグループ学習を通して- -要約-

坪川敏光

「武道」の一種目である柔道において,男女共習グループ学習の中で生徒が主体的に活動し,また,生徒が自ら課題を発見し,解決していく力を育てる授業ができないかを検討し実施してきた報告である。今までの固定概念にとらわれることなく,よりよい授業形態,よりよい学習方法はないかという考えから,基本動作指導の工夫,対人的技能指導の工夫,試合方法の工夫,学習ノートの工夫,などによる授業実践を試みた。結果,グループで学習することや,男女共習で行うことに対し最初はとまどいを見せていた生徒たちが,徐々にグループで協力しながら課題を解決していこうという変化を見ることができた。

<キーワード>柔道,グループ学習,男女共習,学習方法,課題解決

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美への認識力を高める創造的な鑑賞の在り方
-描画材料の歴史にふれ,手作りするワークショップを通して- -要約-

池上さおり

鑑賞教育の充実は,未来を生きる生徒たちが問題を広い視野でとらえ,多角的に理解力を養う上で重要である。そこで,描画材料の歴史を理解し,描画材料を自作する学習は,生徒の視野を拡大し,作品に対する主体的な理解を促すことを明らかにしようとした。美術館の教育普及活動などの調査研究をもとに,鑑賞教材を作成し,学習過程に描画材料を手作りするワークショップやワークシートを取り入れ,授業実践を行った。その結果,作るという能動的なかかわり方が,生徒の鑑賞意欲を高めることが確かめられた。

<キーワード>美術,鑑賞,鑑賞教育,描画材料,ワークショップ

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福井県学力調査からみた中学校理科の学力の推移 -要約-

前田洋一

本研究では,福井県学力調査の第43次から49次までの中学校理科の調査結果を基に,本県中学生の理科の学力について分析を行った。その結果以下の点が明らかとなった。
各観点ごとの到達度は,第43次ではすべての観点が努力を要するであったが,以後は,第49次の「思考」をのぞき「おおむね満足」の範囲にある。また,技能については第43次以降,到達度が上がってきている。思考については,山形の変化をみせており,第49次では第43次の水準となっている。
基礎的・基本的内容と応用的・発展的内容では,基礎について第43次以降,常に「おおむね満足」の範囲にあるものの,応用については,第43,44次「努力を要する」であったものが,第45次~第47次まで「おおむね満足」の範囲にあった。ところが第48,49次と2年間「努力を要する」に下降している。応用が基礎と比べて到達度が低く,両者の変化の様子は山形の変化を見せている。
さらに,今後の学力調査の在り方について検討した。

<キーワード>福井県学力調査,中学校理科,学力,基礎・基本,到達度

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科学的な見方や考え方を養う観察,実験の指導の在り方
-「なぜ」を原動力とする観察,実験- -要約-

西出和彦

この半世紀,学習指導要領における理科の目標は,一貫して「科学的な見方や考え方を養うこと」を柱としてきた。理科教育における観察や実験には,実証性,再現性,客観性が求められる。その観察や実験などを通してこの目標を達成させようとしてきたのである。ここでは改めてこの目標に注目して,観察や実験の指導の在り方を問い直したい。児童生徒の実態を知るものとして福井県学力調査の結果に注目し,また,観察や実験を指導する際の参考資料としては教科書の記述を用いた。今,最も注目している点は,問題設定,仮説設定の仕方であり,「なぜ」と問い直す力についてである。

<キーワード>科学,科学的,自然観,観察,実験,見通し,目的意識,探求,生物

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コンピュータ計測を積極的に用いた技術・家庭科の授業実践 -要約-

山本利一

中学校技術・家庭科「技術とものづくり」の授業の中で,積極的にコンピュータを活用した授業実践を行った。コンピュータを計測機器として捉え,その特徴を生かした授業を構成した。特徴として,①初期条件を設定すれば,連続した自動計測が可能である,②測定間隔を長短,任意に設定できる,③測定したデータの加工が容易にできる,④同時計測が可能である,などである。授業実践としては,「電流・電圧・抵抗の関係を調べる」「電解コンデンサの充放電の測定」「手巻きコイルモータの回転数測定」「乾電池(備長炭電池)の負荷-持続時間の測定」「太陽の動きに対する太陽電池の出力電圧の測定」「のこぎり引きの周期測定」に取り組んだ。その結果,計測作業の効率化が図られ,測定したデータの加工が容易にできるようになり,学習効果が上がる授業実践ができた。

<キーワード> コンピュータ計測,技術とものづくり,情報とコンピュータ,技術科,授業実践

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児童の知的好奇心を高める教材・教具の工夫
-工夫する力が育つ「ものづくり」 - -要約-

甲斐和浩

新学習指導要領における小学校理科の改善点のひとつに,物質とエネルギー領域における「ものづくり」の充実があげられている。児童の知的好奇心を高め,実感を伴う理解を図るために「ものづくり」は大変重要であるとされている。そこで,授業における「ものづくり」を”問題意識が芽生えるものづくり””体感や体験ができるものづくり””学習の成果を適用するものづくり”の3つ場としてとらえ,それぞれの場で参考となる「ものづくり」を紹介する。

<キーワード>小学校理科,ものづくり,教材・教具