生きる力をはぐくむ「総合的な学習」の在り方

総合的な学習研究プロジェクト
間 朋子(11),塩田俊幸(11),中谷忠裕(11,12),三ツ井知恵(12,13)
小川眞紀子(12,13),白木一郎(12,13),熊澤純枝(12,13),中野吉人(13)
( )内の数字は,本研究に携わった年度を示す。

小中学校では,2002年度から総合的な学習の時間が実施されるが,学校現場では総合的な学習のねらいである生きる力をどのようにはぐくんでいくかが大きな課題となっている。本研究では,1年次は,県内の小中学校における総合的な学習の現状を把握し,課題解決の糸口となる情報を提供した。2年次は,1年次の研究を基に評価の在り方に焦点を絞って,授業実践を行った。その結果,観点に沿った自己評価を行うことにより,学習を振り返る力が育成されたり,相互評価を取り入れることにより,知識の共有化や次の学習への意欲付けにつながったりすることが分かった。3年次は,単元を見通した指導と評価の一体化を図って授業実践を行った。子どもの実態に合わせて評価活動を具体化し,支援することで,子どもは主体的に学習を進めることができ,自己の成長につながることが分かった。

<キーワード> 総合的な学習,評価規準,自己評価,生きる力

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情報活用能力を高めるネットワークの教育利用に関する研究
-インターネットを活用した授業を展開するための支援活動を通して-

情報教育研究プロジェクト
藤野正昭(11,12),富田裕之(11,12,13),丹尾秀雄(11),安竹良則(11),
内田孝三(11),林智志恵(11,12),山田雅彦(11,12,13),高須一郎(12,13),
山北理吏(12,13),龍川みか(12,13),西脇繁和(13),澤田佳久(13)
( )内の数字は,本研究に携わった年度を示す。

子供たちがこれからの社会を生き抜いていくためには,情報や情報手段を適切に活用する「情報活用能力」を身に付けることが必要となる。そして,情報を主体的に活用するための道具としてインターネットが不可欠な学習環境の一つとなる。本研究では,情報教育の推進を図ることを目指し,1年次において,ネットワークの活用方法を探るための授業実践を行うとともに,インターネットの教育利用に関わる児童生徒用及び教師用の資料を作成した。2,3年次には,これらの資料の発展的改訂と新たな資料の作成を行い,学校現場への提案を試みた。取組を通し,情報活用能力を高めるという視点からの資料の有用性,そして幾つかの有効な活用方法を見いだすことができた。

<キーワード>情報教育,情報活用能力,インターネット,情報モラル

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学校で生かせる集団づくりのための有用な活動の研究
―グループ体験の実践及び個人の意識調査「Smile」の開発を通して―

教育相談研究プロジェクト
佐飛克彦(11,12,13),田中正人(11,12,13),大澤朋子(11,12,13),
林 恭子(11,12),三輪加奈枝(11),川道初美(11),佐藤成司(11),
上田眞理子(11,12),皆川孝志(11,12),岡崎一郎(11,12),
吉村ひろみ(12,13),桑原礼子(12,13),山田泰久(12,13),
宇佐美宏一郎(13),野田よし美(13),東 美穂(13),山本雅代(13)
( )内の数字は,本研究に携わった年度を示す。

コンピュータを用いて集団でできる個人の意識調査「Smile」(パソコン版)を開発し,信頼性や妥当性の検証を経て,中学2年生の理解に役立つようにした。また,個が生きる集団づくりとしての構成的グループ・エンカウンターによるグループ体験活動の実践では,指導者である学級担任の支援の在り方について研究した。すなわち,①生徒理解では意識調査「Smile」などの調査結果,②グループ体験の実践では指導案やグループ活動等の諸準備という具体的な支援,③実践後の生徒理解では自由記述感想文の客観的な分析や評価の一方法を提供するという,3つの場面ごとに学級担任を支援する「開発的教育相談型コンサルテーション」について提案を行った。

<キーワード>構成的グループ・エンカウンター,自由記述形式の回答の分析, コンピュータによる意識調査,開発的教育相談型コンサルテーション
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心を豊かに用いる高等学校国語科の学習指導を考える
-「父性」と「母性」という観点に立った,理解力と表現力の育成を目指して-

藪 利弘

高等学校国語科の授業において,生徒同士が「話し合う・聞き合う・書き合う・読み合う」という活動の中で,互いに意見交換をしながら「伝え合う力」の育成を図ることは非常に大切である。そうした活動を通して,自分と似たような考え方を持つ者がいたり,自分とは異なる考え方を持つ者がいたりということを学び合うこと,さらに,それに対する意見を述べ合い,書き合いながら相互の理解を深め合うことは,生徒たちが今後の人生を生き抜いていく上で,言葉の力を基礎として,心の面での「生きる力」の育成につながり,柔軟でかつ強固な「豊かな心」の育成につながる。そのために,生徒同士が「父性的な意見」と「母性的な意見」を伝え合う活動が,一つの有効な手段となることが分かった。

<キーワード> 高等学校国語科,伝え合う力,生きる力,豊かな心,父性,母性

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学級集団づくりに生かす構成的グループ・エンカウンターの工夫
-エクササイズ後の振り返りを通して-

吉村 ひろみ

学級集団づくりに有効と言われる構成的グループ・エンカウンター(以下SGEと略称)において,指導を評価する上でのポイントを探るため,心理的に不安定と言われる中学2年生を対象にSGEを実践し,振り返り用紙の項目間の相関や振り返り用紙及び感想文と学校生活適応感との相関を検証した。検証の結果,協力という人とのかかわりの中で自分への評価を高め,学校生活適応感や進路意識を高める傾向や,楽しさという雰囲気から学級への評価を高める傾向がうかがわれた。自由記述の評価では,一連のSGE後の感想を「肯定的-否定的」,「EXPスケール」の観点から評価することが,生徒理解や指導に向けて有効であることがうかがわれた。

<キーワード>集団づくり,構成的グループ・エンカウンター,振り返り用紙,EXPスケール

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学校復帰の意欲を高めるためのプログラムの工夫
-フレンド学級に通う子供たちはどのように学校に戻って行ったか-

野田 よし美

適応指導教室「フレンド学級」は子供の心の居場所を保障しながら,子供の世界を広げ,集団に適応していく力を育て,最終的には,子供の状況に合わせて,学校復帰を目指している。学校復帰に向けては,子供たち一人一人が目標を決め,登校に挑戦するチャレンジ期間を設けている。本研究では,チャレンジ期間終了後の調査結果等を基に,どのような指導援助プログラムや学校との連携が,子供たちの学校復帰の意欲を高めるのに効果的であるかを考察した。その結果,学校における柔軟な対応と,子供の活動エネルギーを登校へ向かわせる手立てが重要であり,好機をとらえた連携ができた時に学校復帰という効果をもたらすことが確認できた。

<キーワード>フレンド学級,適応指導,チャレンジ期間,学校復帰,連携

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不登校の生徒に対する援助の在り方に関する一考察
-フレンド学級での活動や面談,家庭・学校との連携を通して-

山田 泰久

本研究における中学3年生のA男は,フレンド学級に入級する1年以上前から,ほとんど登校できなくなっていた。家にいることが多く,集団の中に身を置いて活動することが長期間なかったため,進路の問題に直面することを含めると,このままでは引きこもりの状態にも高じかねないことが予見された。そこでフレンド学級においては,集団の中で友達との心の交流を深めながら,触れ合うことに喜びを見出し,生き生きと活動できるよう支援した。また,家庭や学校との連携を通して,A男に添ったかかわりについて共通理解を図りながら援助していった。その結果,彼の周りに心の居場所ができ,物事に前向きに取り組もうとする,行動への活力が生まれてきた。

<キーワード>本人に添うかかわり, 連携, 心の居場所

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グラフ電卓を活用した主体的な学習の在り方
-二次関数を扱った数学的活動を通して-

村中 正明

グラフ電卓を数学の「数値化・視覚化」の道具として活用し,データ収集器も併用することで物体の自由落下運動の時間と落下距離のデータを集めたり,それらをグラフ化することが自動的にできるようになった。グラフ電卓等を活用し,物体の自由落下運動の様子を調べる実験を通して,身近な事象に潜んでいる法則を生徒が主体的に求める数学的活動を行った。生徒はグループの人と協力したり,先生に聞いたりして,意欲的に授業に取り組んでいた。また,「今日の授業は楽しい」という生徒がとても多かった。ただ,この形態の授業が初めてであったことや,グラフ電卓の操作面などで戸惑いが見られた。

〈キーワード〉グラフ電卓,関数,数学的活動,主体的な学習

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高等学校音楽において豊かな表現力を育成するための工夫
-生徒の主体性を重視した器楽アンサンブル活動を通して-

尾鳥 達彦

高等学校芸術科音楽の器楽分野の指導において,生徒の主体的なアンサンブル活動を効果的に行うことにより,さらに豊かな表現力を育成することができるであろうという仮説を立てた。これを実証するため,生徒の意識や実態を把握した上で,適切な教材・教具の準備をして授業実践を実施した。生徒の個性を尊重し主体的に活動させるため,曲目や楽器を自由に選択させたり,アンサンブルアレンジも自由に行わせた。未経験の内容が多く,戸惑う場面も見られたが,積極的,協力的にアンサンブル活動を行い,大きな成果と意識の変容を見ることができた。

<キーワード>器楽,アンサンブル活動,表現力,アレンジ,教材・教具

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評価規準を用いた課題学習の展開
-高等学校地理歴史科・公民科におけるポートフォリオ評価の活用を通して-

竹吉  睦

高等学校地理歴史科・公民科において,評価規準を用いた課題学習を展開し,学習を支援する手立てとしてポートフォリオ評価の活用法を検討した。その結果,学習成果を重視したポートフォリオと,学習内容とその学習方法を関連付けた評価規準を用いることによって,生徒が主体的に学習し高い学習成果を得られることが分かった。

<キーワード>評価規準,課題学習,地理歴史科・公民科,ポートフォリオ評価,評価基準表

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保健学習の在り方に関する調査的研究
-「保健」の授業に対する担当教員,養護教諭へのアンケート調査を通して-

木本 健

児童生徒の健康に関する問題は近年深刻化し,早期からの健康教育の重要性がこれまで以上に高まっている。本研究では,現在,小・中・高等学校で行われている「保健」の授業における授業担当者の意識,指導方法,養護教諭のかかわり等について調査研究を行った。その結果,保健学習の重要性を認識しながらも,指導への苦手意識を持つ教員が多いことが分かった。また,多様な指導方法を求められている保健学習において,十分な授業研究・教材研究が行われていない現状が見え,魅力ある授業を構築するための,授業担当者の努力と研修の機会の必要性が感じられた。教育職員免許法改正により,養護教諭の授業担当も可能になったが,授業担当者と養護教諭との間に意識の違いが見え,今後の保健の学習指導を進めていく上での,連携の在り方に関しての課題が見えてきた。

〈キーワード〉健康教育,保健学習,兼職発令,養護教諭

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「英語Ⅰ」における書くことを中心としたコミュニケーション能力の育成に関する研究
-コンピュータの活用や評価基準の提示を通して-

藤田 裕

本研究は,高等学校外国語科「英語Ⅰ」の学習指導法に関する研究で,特に,書くことを中心としてコミュニケーション能力の育成を図る手法を探るものである。コンピュータを活用したメッセージの授受活動,評価基準を参考にした英文の修正作業,電子メールの交換などを通して,生徒が書く英語や書こうとする態度がどのように変化するのかを研究した。その結果,書くことをメッセージの授受活動における一つの手段と位置付け,それを含む総合的なコミュニケーション活動を行ったり,評価基準を前もって知らせたりすることによって,生徒が書く英語を量的に増やすことができるとともに,書くことに対する苦手意識をある程度払拭できることが分かった。

〈キーワード〉英語Ⅰ,書くこと,コミュニケーション能力,電子メール,評価基準

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問題解決能力を高める学習指導の改善
-小学校家庭科の布を用いた「生活に役立つ物」の製作に関する指導法の工夫-

長谷川 美津代

新学習指導要領では小学校家庭科のねらいとして,学習の成果が生活の場で生きて働く力となるため,実践的・体験的な学習の充実や問題解決能力の育成を目指す授業への改善を図ることが課題となっている。新課程の実施を目前として,小・中・高等学校の系統性や一貫性を把握しながら,児童の発達段階や地域の特色などの実態を考慮し,題材や教材の配列を検討した指導計画の立案が急務である。本研究は平成11年度から3か年にわたり,小学校家庭科の布を用いた「生活に役立つ物」の製作に関する内容に絞り,問題解決能力を高める学習指導について調査・分析・考察するものである。最終年度の平成13年度には,具体的な指導法の構想と実践,教材研究,段階見本,教材集作りを行った。
<キーワード>小学校家庭科,問題解決能力,生活,布,製作,教材

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身近な環境に働きかけ,更なる活動意欲を生む生活科
―「季節の変化と生活」における教材・教具の工夫―

甲斐 和浩

新学習指導要領における小学校生活科の基本方針の一つに,「直接かかわる活動や体験の中で生まれる知的な気付きを大切にする指導が行われるようにすること」がある。身近な環境とかかわる活動を繰り返すことにより,児童は様々な気付きをもつようになる。その中には,更なる活動への発展性が生まれるものも多く含まれているはずである。そこで,児童の気付きから出発し,更なる発展を生み出すために参考となる教材・教具の工夫を試みた。

<キーワード>小学校生活科,教材・教具

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ラットを用いた肝臓,腎臓,脳,脊髄及び内分泌器官の観察

西出 和彦

動物体の恒常性の維持にかかわる器官(肝臓,腎臓,脳,脊髄及び内分泌器官)を観察するための実習としてラットを解剖し,上記の学習におけるラット解剖実習の有効性を検討した。高等学校の生物では,人体を対象にしてこれらの器官について学習するが,ラットはヒトと同じほ乳類であるため体の基本的構造が類似しており,実物を観察する教材として有効である。各器官の外部形態と同時に内部構造についても観察を行い,特に腎臓,副腎,生殖器官,脳などの器官について有益な観察結果を得た。また,ラットの各動物組織について,簡便な方法を用いてどの程度顕微鏡観察ができるかについても検討したが,現在までのところ顕微鏡観察に耐え得るだけのプレパラート作製には至っていない。

<キーワード>ラットの解剖,肝臓,腎臓,脳,脊髄,内分泌器官

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ケイ藻から見た福井県の河川の水質について

奥村 貢

河川に生息しているケイ藻は,組成が水質環境を反映するので,水質を判定する際には有効なものとなる。福井県内の4つの河川(九頭竜川,足羽川,日野川,竹田川)の6地点において,ケイ藻を採取・観察することにより,それぞれの河川の水質を判定することを試みた。その結果,河川により多少差はあるものの,4つの河川(6地点)はすべて,きれい~割合きれいな川であることが分かった。また,足羽川の1地点において昨年度との比較を行ったところ,水質は多少良くなっているという結果が得られた。また,ケイ藻の組成に違いが見られた。

<キーワード>河川の水質,ケイ藻,環境測定

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児童の科学的な見方・考え方を育てるための観察・実験の工夫
-「もののあたたまり方」の単元について-

多田 敏明

理科の学習は,児童の既有している様々な自然についての素朴な見方や考え方を,観察・実験などの問題解決活動を通して,少しずつ科学的なものに変容させていく営みである。そうした活動の中で,観察・実験の果たす役割は大変重要であり,再現性や客観性などの条件が整うことで自然事象に対する概念が明らかになり,科学的な見方や考え方が養われていくものと考える。しかし,毎回行う観察・実験がこれらの条件を満たしているとは限らない。ときには,結果が明確に現れない場合やわずかな条件の変化により違った結果が現れる場合もある。今回は,単元「もののあたたまり方」の中の,結果が明確に現れにくい「水のあたたまり方」に関する実験について検証した。

<キーワード>水の対流,熱の伝わり方,観察・実験の再現性や客観性