壬生狂言(みぶきょうげん)

壬生狂言といえば、京都壬生寺の狂言が有名です。春と秋、そして節分のころに盛大(せいだい)に行われています。約700年前、鎌倉時代、円覚上人(えんかくしょうにん)が、京都の壬生寺で「大念仏会」の昼の勤行(ごんぎょう:仏前でお経を読んだり礼拝したりするお勤め)として始めたものが、やがて若狭に伝わったのです。
 毎年開催(かいさい)の京都壬生寺とはちがい、小浜の和久里では西方寺に建立されている宝きょう印塔の七年供養(くよう)として奉納(ほうのう)されます。和久里地区では区民で保存会を組織しています。若者たちが甚六会に集まり、舞台づくりからすべての企画をし、地区の長老の教えを受けながら練習にはげみ、本番をむかえます。

和久里壬生狂言の由来

京都の他、若狭小浜にのみ伝わるもので、ご本家壬生寺での演目ではすでに消滅(しょうめつ)した曲目も若狭には残されており、素朴(そぼく)で荒々しさを持つ和久里の狂言は、貴重な民俗芸能(みんぞくげいのう)といえます。 

京都から伝わった過程、ルートは明らかではありませんが、舞台となる和久里の西方寺は、南北朝から室町時代、南朝の小浜の代官(だいかん)の長井雅楽介(うたのすけ)が戦いに敗れ出家、創建したものであり、その供養塔(くようとう)として「市の塔」が建てられました。そうしたつながりから伝わったと見られます。 
 なお、「市の塔」は江戸時代には小浜の町中、八幡宮のそばの永三小路(現在の小浜市男山)にありました。文化13年(1816年)、文政5年(1822年)、天保5年(1834年)に「市の塔」の七年供養会があり、「壬生狂言」が行われていたことが記録に残っています。明治6年に「市の塔」は和久里の西方寺に移され、壬生狂言も和久里区民が担(にな)うことになったようです。
 また、京都と小浜は古くから「鯖街道(さばかいどう)」(若狭街道)を通じて政治・経済・文化や庶民生活において深い交流があり、そのルートから伝わったものともみられています。

若狭においては、西方寺境内にある「宝篋印塔(ほうきょういんとう)」(通称 「市の塔」)の七年祭(十二支の子(ね)と午(うま)の年)に奉納されます。京都と同じく着面無言劇(ちゃくめんむごんげき:お面を着けて演じる無言の劇)で、和久里では9曲が伝えられています。
 「狐釣り(きつねつり)」「腰祈り(こしいのり)」「寺大黒」「愛宕詣り(あたごまいり)」「餓鬼角力(がきずもう)」「炮烙割り(ほうらくわり)」「座頭(ざとう)の川渡り」「とろろすべり」「花盗人(ぬすびと:ぬすっと)」の9曲です。
 「勧善懲悪(かんぜんちょうあく:よい行いをすすめ悪をこらしめること)」など、すべての人の道や仏法を説き信仰を勧(すす)めるものを基本とし、ユーモラスな着面無言劇(むごんげき:パントマイム)が面白おかしく娯楽性(ごらくせい)も豊かに演じられます。
 また、本家本元の京都では上演の記録のない「腰祈り」があり、京都では廃曲(はいきょく:廃止)となっている「狐釣り」「座頭の川渡り」も今も伝承しており、注目されます。
 昭和61年に福井県無形民俗文化財に、そして、平成15年に国選択無形民俗文化財に指定されました。

和久里壬生狂言の上演

上演する場所は、西方寺境内(けいだい)に丸太で組んだ仮設(かせつ)の舞台上です。檜(ひのき)の柱に屋根はわらぶきで、舞台のひさしと床のすそまわりは杉と檜(ひのき)の青葉でかざられます。ひさしの正面には「壬生」と大きく書かれた額(がく)がかけられます。舞台の下手(しもて)には橋がかかります。
 舞台の上手(かみて)には囃子(はやし)座があって、鰐口(わにぐち)と太鼓(たいこ)、笛ののんびりとした囃子に合わせて、こっけいな身ぶり手ぶりにより面白おかしく演じられます。
 三日間とも全曲が演じられますが、上演の順序は毎日入れ替えられます。中日には、狂言に先立ち大般若経(はんにゃきょう)転読による供養会が行われます。
 また、三日間とも午後に、地元の小学生男子による宝塔縁起(ほうとうえんぎ)の朗読(ろうどく)があります。

餓鬼相撲(がきずもう)

9番の演目の中でもとくににぎやかでユーモラスなものです。
閻魔大王(えんまだいおう)が鬼二人を従えて、勢いよく登場します。続いて地蔵様がふるえる餓鬼(がき)(亡者(もうじゃ))二人をつれて登場。鬼たちと餓鬼たちに相撲を取らせようと閻魔がもちかけ、地蔵は承諾します。
まず、赤鬼対餓鬼1。弱々しくふるえるばかりの餓鬼は鬼が四股(しこ)を踏むだけで転んでしまいます。
つづいて、黒鬼対餓鬼2。これも同じような結果に。
満足する閻魔に対し、地蔵はもう一番相撲をとらせるよう申し入れます。
いやがる餓鬼たちに地蔵が錫杖(しゃくじょう:僧や修験者が持ち歩くつえ、一番上に鉄の輪がついていてふると鳴る)をかざして祈ります。すると、餓鬼たちは四股を踏むたびに不思議とパワーがみなぎって来て、赤鬼、黒鬼ともに連破してしまいます。
くやしがる閻魔は、地蔵との直接対決にいどみます。しかし、かなわず土俵に転がります。地蔵と餓鬼たちは大喜びで、閻魔は鬼たちに八つ当たりしながら退場します。

わかりやすくユーモアのあるストーリーで、子どもたちにも人気があります。
上演時間約24分

縁起朗読(えんぎろうどく)

宝塔縁起(ほうとうえんぎ)の朗読です。
地元の小学生の活躍の場面です。